総数引受契約は紙面に押印が必要?

 株式会社Beedの真下です。近年、投資関連契約の押印実務が変わってきており、今回は、投資関連契約の紙面押印の要否について記載しました。スタートアップ関係者のペーパーワークが減り、事業に集中できる時間が増えることに繋がれば嬉しいです。
※2023年4月13日時点の情報です。

1.投資家と交わす書類

 投資を受けるときは、スタートアップと投資家との間で、ファイナンスのスキームに応じて、以下の契約書等を取り交わします。実際にどの契約書を取り交わすかはケースバイケースのため、専門家と相談しながら投資手続きを進行していただければ幸いです。

(1)普通株式発行

①投資契約書又は株式引受契約書
②申込証(申込割当の場合)又は総数引受契約書(総数引受の場合)

<注意点>
投資家と取り交わす書類が、「投資契約書のみ」「株式引受契約書のみ」「申込証のみ」「総数引受契約書のみ」といったケースもあります。また、状況に応じて、株主間契約書を締結することもあります。

(2)J-KISS型(又はCE型)新株予約権

①J-KISS型新株予約権投資契約書
②申込証(申込割当の場合)又は総数引受契約書(総数引受の場合)

<注意点>
投資家と交わす書類が、「J-KISS型新株予約権投資契約書のみ」というケースもあります。

(3)みなし優先株式

①投資契約書又は株式引受契約書
②申込証(申込割当の場合)又は総数引受契約書(総数引受の場合)
③合意書

<注意点>
投資家と取り交わす書類が、「投資契約書+合意書のみ」「株式引受契約書+合意書のみ」といったケースもあります。合意書が無いケースも稀にあります。

(4)優先株式

①投資契約書又は株式引受契約書
②申込証(申込割当の場合)又は総数引受契約書(総数引受の場合)
③株主間契約書
④買収分配合意書(合意書のタイトルは様々です)

<注意点>
上記②③④は、それぞれ状況によって無いケースもあります。

2.登記の観点で紙面に押印が必要か

 結論として、現在は、上記1に記載した書類全て、登記の観点で紙面への押印は必須ではありません。
 ただ、「登記のために紙面押印が必要」という情報が一部残っており、少し紛らわしいため、この点について以下に記載いたします。

(1)商業登記法の定め

 前提として、商業登記法第56条、第65条に従い、上記1(1)~(4)の手続きについて法務局に登記申請するときには「引受けの申込み又は総数引受契約を証する書面」を添付しなければならないとされています。

(募集株式の発行による変更の登記)
第56条 募集株式(会社法第百九十九条第一項に規定する募集株式をいう。第一号及び第五号において同じ。)の発行による変更の登記の申請書には、次の書面を添付しなければならない。
一 募集株式の引受けの申込み又は会社法第二百五条第一項の契約を証する書面

商業登記法第56条を一部抜粋

(新株予約権の発行による変更の登記)
第65条 新株予約権の発行による変更の登記の申請書には、法令に別段の定めがある場合を除き、次の書面を添付しなければならない。
一 募集新株予約権(会社法第二百三十八条第一項に規定する募集新株予約権をいう。以下この条において同じ。)の引受けの申込み又は同法第二百四十四条第一項の契約を証する書面

商業登記法第65条を一部抜粋

(2)原則

 「引受けの申込み又は総数引受契約を証する書面」の法務局への提出は、原則として、「原本(紙面)」又は「当事者が法務省が認める電子サインをしたPDF」のいずれかを提出する方法で行います。

(3)例外

 「引受けの申込み又は総数引受契約を証する書面」の法務局への提出は、例外的に、「会社代表者が作成した申込み又は総数引受契約があったことを証する書面に、申込証又は総数引受契約書の雛型と、引受者の一覧表を合綴」したものを法務局に提出するという方法があります。
 この場合、「引受けの申込み又は総数引受契約を証する書面」について、「原本(紙面)」又は「当事者が法務省が認める電子サインをしたPDF」を提出する必要はありません。

<根拠>
・平成14年8月28日付法務省民商第2037号(民事局商事課長通知)
・令和4年3月28日付法務省民商第122号(民事局商事課長通知)

※令和4年の通知は、「複数の契約書により一の総数引受契約が締結された場合」と記載されていますが、私の経験の範囲では、一つの契約書の場合でも上記の例外対応で手続きできています。

3.実務的な注意点

 上記2のとおり、例外の方法を用いれば、「引受けの申込み又は総数引受契約を証する書面」について、「原本(紙面)」又は「当事者が法務省が認める電子サインをしたPDF」を提出する必要はありませんが、ネットの情報や書籍の記載では、例外について記載されていないことがあり、発行会社又は投資家が上記の例外を知らないときに、登記を理由に紙面を要求するということがあります。
 また、これまで登記観点で紙面の要否について記載いたしましたが、それ以前に、投資家が何らかの理由で紙面で契約締結しなければならないというケースでは、紙面で作成せざるを得ないということがあります。

4.補足

 本題から少し外れますが、現在は、会社が商業登記電子証明書を取得していたり、代表者(印鑑届出者)がマイナンバーカードによる電子署名をすることができれば、一部のケースを除いて、法務局に全てPDFで書類を提出することができ、「書類を印刷→印鑑で押印→郵送」という手間を削減できるようになりました。

5.最後に

 株式会社Beedでは、スタートアップの資本政策の失敗を防ぐため、動画による情報発信を行っています。知っていれば防げることが多く、是非、スタートアップ関係者にご視聴いただければ幸いです。
 今回の記事で取り上げた、エクイティファイナンスの各スキームなどについても解説しています。

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最後までお読みいただき、ありがとうございました!